宮崎駿も愛する本―読んだ人のみ味わえる意外なラストとは『海辺の王国』ロバート・ウェストール

個人的に「超好きな本」としてご紹介します。表紙からぱっと見は爽やかですが、その奥にはしっかりとした深みがある児童文学作品です。

書誌情報と著者紹介

  • 書名:The Kingdom by the Sea(海辺の王国)
  • 著者:Robert Westall(英国・児童文学作家/教師)
  • 初版:1990年(英国・Methuen Children’s Books)
  • 主な受賞歴:Guardian Children’s Fiction Prize受賞作(1991年)
  • 本作は、第二次世界大戦中の英国北東部を舞台に、家族を空襲で失った少年ハリーと犬の旅が描かれています。

あらすじ(ネタバレ控えめ)

主人公は12歳の少年ハリー。ある空襲によって自宅が破壊され、家族とは離れ離れになってしまいます。自分が“育てられる”ことに囚われたくないハリーは、街を出て海辺を目指して旅に出ます。そこで出会った犬・ドン(Don)とともに、荒れた時代・風景・人々と出会いながら、自分自身の“居場所”を探していきます。

旅の途中で出会う人物たちは、優しい人もいれば、いやな人もいます。児童文学と言っても、決して“ゆるく安心”しかないわけではなく、戦争・孤独・喪失といったテーマに真摯に向き合っています。レビューでは「児童向けに見えて、かなり成人向けのテーマも含む」との声もあります。

ラストでは、読者が「え、こんな終わり方?」と感じるほど、曖昧で、問いを残す形で幕を閉じます。「帰るべき場所とは何か」「変わってしまった自分をどう受け入れるか」といったテーマを静かに提示します。


特徴・魅力

  • 歴史的背景としての戦時下英国:空襲・被災・疎開・家族の喪失などが描かれ、児童文学ながら戦争の“現実”を感じさせる設定です。
  • 少年+犬という相棒の組み合わせ:犬ドンとの旅は、物語に人間以外との絆・信頼・安心を加えています。
  • 淡い希望と重みある問い:物語全体に漂う“希望”がある一方で、簡単に“ハッピーエンド”とならない構成です。読後に味わいが残るタイプの作品です。
  • 児童文学としての読みやすさと、大人にも響く深さ:若年層向けに書かれていますが、戦争・家族・自己の変化といった普遍的テーマがあるため、幅広い年齢層で読まれています。

注意点・読みどころ

  • 内容に戦争・空襲・家族喪失といったシリアスな要素が含まれているため、完全な“子ども向けのおとぎ話”として期待するとギャップを感じるかもしれません。
  • 物語の終わりが“完全な解決”ではないため、読了後「モヤッとした」という感想も見受けられます。
  • 英語版が主で、邦訳版の存在・翻訳の質・版型などを事前に確認しておくと良いです。

こんな方におすすめ

  • 戦時下を舞台にした児童/ヤングアダルト向け作品を探している方。
  • 少年の成長・旅・絆・喪失をテーマにした重めの読書体験を求めている方。
  • “児童書だから安心”ではなく、“児童書だからこそ伝わる深さ”を味わいたい方。

まとめ

『The Kingdom by the Sea』は、表紙の「爽やかさ」が少し裏切られるほど、内側に深いドラマをたたえた作品です。動物+旅という要素に惹かれたとしても、その旅がただの冒険では終わらないところが、筆者が「超好き」と言う所以でもあります。

読後、その“問い”にしばらく心を残す、そんな一冊。もしまだ読んでいないなら、ぜひ手にとってみてください。

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