本日ご紹介するのは、タイトルからしてすでに変な絵本、
『本のなかの本のなかの本』(原題:The Book in the Book in the Book)。
「え?タイトルの繰り返し、誤植では?」と思うかもしれませんが、マジでそういう構造の本です。
本の中に、さらに本があり、そしてまたその中に本がある――。
この”三重構造”の絵本、読むというより“降りていく”体験そのものなのです。
物語は「つまらない日」から始まる
少年が両親とお出かけしているところから始まるこの物語。
でも両親は全然構ってくれない。
つまらないなあと一人歩いていると、ぽとんと1冊の本が落ちている。
それを開くと、まったく別の話が始まります。
その中でも、また同じ少年がいて――また構ってくれない両親――また本が落ちていて――
…開くとまた別の話が始まって……
という具合に、読者はどんどん“深く潜っていく”ことになります。
物理的にもページが「小さく」なっていく
この本、面白いのは物語構造だけではありません。
なんと、実際にページのサイズが少しずつ小さくなっていくんです。
- 一層下の物語に入ると、そのページがひとまわり小さくなり、
- 本の中の本のページが実際に「枠の中」に印刷されていて
- しかもさらにその内側にまた小さな本
という具合に、物理的にも“本の中に本がある”構造が再現されています。
これはもう、読書というより箱庭的アート体験。
読者の手の中で、どんどん世界がミニマムになっていくのが感じられます。
最深部では「宇宙」へ、そして……
物語は最深部にたどり着いたとき、突然スケールが宇宙へと広がります。
少年が迷い込んだその世界は、小さなページの向こうに広がる想像力の銀河。
でもそのままでは終わりません。
そのあと、一層ずつ“戻っていく”展開になるのです。
あの本の中の本の中のページを一つひとつくぐり抜けながら、最初の世界へと帰還する。
まさに絵本版『インセプション』と言える構成です。
思い出すのは『インセプション』と『ミザリー』
この入れ子構造、やはり思い出さずにいられないのは、映画『インセプション』。
夢の中に入って、そのまた中へ――という構造にそっくりです。
また、小説『ミザリー』の話も触れておきたいところ。
スティーヴン・キングが描いたこの作品でも、「本の中で小説を書き始める」という劇中劇構造が登場します。
しかもその中で使っているタイプライターが壊れていて、たとえば「T」の文字が出ない。
原稿には「T」だけ手書きで加えられていたりするなど、物理的な演出が盛り込まれている点が、『本のなかの本のなかの本』とも通じる部分です。
子どもも大人も楽しめる“想像力の迷宮”
この絵本、確かに子ども向けに書かれているものですが、
構造的な遊び方やメタフィクション的な要素は、本好き・物語好きの大人の心にも突き刺さるはず。
物語に吸い込まれるとはこういうことか。
本を読む行為そのものを、ここまで立体的に描いた作品はなかなかありません。
総評:絵本なのにノーラン的構造、そしてちゃんと優しい
『本のなかの本のなかの本』は、
- インセプションのような階層構造
- ミザリーのような劇中劇と物理的仕掛け
- そして、最後にちゃんと“帰ってこられる”安心感
すべてを絵本として成立させてしまった、変で、美しくて、しかも優しい作品です。
「変な本」として持っておいても価値あり。
絵本好き、物語構造マニア、変な本コレクター……誰にでも勧めたくなる一冊です。