今回紹介する「変な本」は、
英国のイラストレーター、アンディ・ライリーによる奇書
『自殺うさぎの本(The Book of Bunny Suicides)』。
タイトルからしてすでに危うい匂いがしますが、
中身はもっと危うい。だけどなぜかクセになる……そんな禁断の1冊です。
可愛いうさぎ、でも全力で“死にに行く”
本書の主役は、つぶらな瞳で無表情なうさぎたち。
ふわふわしていて可愛いビジュアルなのに、やっていることはとんでもない。
- 鍾乳洞のひび割れ真下で、ひたすら落石を待つ
- スペースシャトルの打ち上げ台で、なぜかスタンバイ
- 巨大風車の下で、ただ静かに回転を待つ
- ノアの箱舟を見送りながら、なぜか浜辺でバカンス
……などなど、「絶対に助からない」シチュエーションにわざわざ入り込んでいくうさぎたち。
1ページ=1アイデアの無言のイラスト集で、読者はただページをめくるたびに
「なんでそんな場所にいるの?」「その発想いる?」と、
思わず笑ってしまうか、苦笑してしまう構成です。
ブラックなのにポップ。エドワード・ゴーリー的世界観
このシリーズ、ただのブラックジョークではありません。
ユーモアの質が洗練されているという点が、多くの読者の心をつかんだ理由。
- 絵柄は極めてシンプルでチャーミング
- 台詞なし、モノクロのワンカット
- でも構図に仕掛けや伏線があり、「気づいて笑う」タイプのギャグ
こうした作風は、エドワード・ゴーリーの影響を感じさせるものです。
彼の作品と同様、可愛さと残酷さが隣り合わせにあるギャップが魅力。
特にこの『自殺うさぎの本』では、「死」を扱っているのに、
決して血なまぐさいわけではなく、むしろ不条理で静か。
どこか哲学的で、どこかシュール。そこに中毒性があります。
3巻まで出ていて、シリーズ累計で人気作に
2005年に日本語版第1刷が刊行されて以降、
短期間で11刷に達するヒット。現在も古書市場では入手可能です。
続編として以下も登場しています:
- 『続・自殺うさぎの本』
- 『帰ってきた自殺うさぎの本』
いずれも同じ形式・同じテンションで、読者の予想を裏切り続けてくれる良作です。
「ひどい本」なのに癖になる?読後の不思議な満足感
この本、タイトルからして一見「悪趣味」に見えるかもしれません。
しかし実際に読んでみると、なぜか愛着が湧いてしまうのが不思議。
- うさぎたちは一言もしゃべらず、淡々とやる
- 死ぬ気満々なのに、どこか間が抜けていてユーモラス
- 悲壮感も説教臭さもなく、ただ淡々と“やってる”だけ
まるで「生の不条理を風刺しているのでは?」と深読みしたくなるほど、
かわいさ・切なさ・ユーモアが一体化した、異常に完成度の高いバカ本です。
まとめ:ブラックユーモアとキュートさの融合
『自殺うさぎの本』は、まさに変な本の王道。
- 可愛い絵本風なのに死をテーマにしている
- 無言のギャグで“絵だけ”で語る
- ポップなのにひどくブラック
- そして謎に癒される
ひとことで言えば、読む人を選ぶ本です。
でも、その分刺さる人には深く刺さる。
笑いながらも「これは…何かすごいものを読んだな」と思わされる作品。
ブラックユーモアやゴーリー系が好きな人、
「可愛いけど尖ってる本」を探している人に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。