『ない本あります』──存在しない本が、ここには“ある”

今回の変な本は、『ない本あります』
まるで禅問答のようなタイトルですが、内容はいたって明快、かつ前代未聞。
この一冊に詰まっているのは、「存在しない本たち」のビジュアルと断片的な世界観です。


「ない本」を“ある本”に変えるマジック

まず、この本の構成を簡単に言うと──
Twitter(現:X)などで一般ユーザーから送られてきた一枚の写真。それをもとに、作者が完全な“架空の文庫本”を創作していくというコンセプトです。

送られた写真を本の装丁に仕立て、そこにそれらしいタイトル、背表紙、あらすじ、架空の著者プロフィール、レビューコメントなどをつけて、本当に書店に並んでいそうな一冊として完成させていくのです。

たとえば『傾いた惑星』というタイトルの一冊は、幻想的な風景の写真がもとになっていて、SF小説として紹介されていたり。
その裏面には「〇〇文庫から新装刊」「著者は心不全で死去」「名作のリバイバル」など、細部まで異常なほど凝っているのです。


ページを開けば“存在しないプロローグ”

この本が優れているのは、装丁デザインだけにとどまらない点。
本バージョンでは、それぞれの架空文庫にプロローグや第4話の冒頭など、本文の一部がちょい足しで収録されており、じっくり読む楽しみも味わえます。

文章はもちろん、文庫ごとに段組・フォント・行間・余白レイアウトが変えてあるという職人芸。
つまり、「この本は“〇〇文庫”から出ているっぽい」と感じさせるデザイン演出までもが一冊ごとに異なっているのです。


「存在しない書評」をめぐる系譜

実はこのような“存在しない本”を扱う作品は文学史上に前例があります。
ポーランドの作家スタニスワフ・レムの**『完全なる真空』**では、全編が「実在しない書物」の書評だけで構成されていました。

本書『ない本あります』は、そんな架空書評文学の現代版・ビジュアル特化型とも言えるでしょう。


見るだけで面白い、読んでも味わえる

ぱっと見て楽しい、よく見るとさらに深い。
まさに「変な本」らしい不思議な読書体験ができます。
この一冊を手に取ると、自分でも「こんな写真、撮って送ってみたい」と思ってしまうはず。

「本ってこうじゃなきゃ」という常識を、ことごとく裏切ってくる本。
それが 『ない本あります』 です

著者:山本ダイスケ
ジャンル:架空文庫コレクション/写真×妄想/メタ文学


本が「情報」だけではなく、「遊び」や「仕掛け」で読者と対話できるとしたら、
この作品はまさにその極致。

現代の書棚に、もっと「ない本」があってもいいじゃないか──
そう思わせてくれる、素敵な1冊です。

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