『プリンセス・ブライド』──物語の中に「作者」が出てくる、構造が変な名作

今回紹介する変な本は、ウィリアム・ゴールドマンの小説『プリンセス・ブライド』。
タイトルからは王道の冒険ロマンスを想像しますが、中身は予想の斜め上をいく変わり種
構造がとにかくヘンで、それでいて泣けて笑える、不思議な魅力に満ちています。


あらすじ?その前に「変な前書き」から始まる

まずは冒頭。作者ウィリアム・ゴールドマンによる異様なほど長い序文が始まります。

「これは世界で一番好きな本。でも私は一度も読んだことがない」

──え?

この時点で、読む側はすでに混乱。でもここからが面白いのです。

実はこの「プリンセス・ブライド」という本は、
ゴールドマン少年が父親から読み聞かせてもらっていた本だったという設定。
子どもの頃の思い出の本を、自分の息子にも読ませようとしたところ、
「第1章までは読んだが、第2章で挫折した」と言われてショックを受けます。


読んでみたら「知らない文章だらけ」

ショックを受けたゴールドマンが自ら本を開いて読んでみると、
「あれ?これ知らない文章だ…つまらない…?」と気づきます。

そこで彼は気づくのです。
父親はつまらない部分を飛ばして、面白いところだけ読み聞かせてくれていたのだと。


ゴールドマン版「抜粋版」を出版してしまう

そして彼は作家としてこう考えます。

「じゃあその抜粋バージョンを、本として出したらいいのでは?」

出版社に「おかしいのか?」と一蹴されながらも、出しちゃいました。
つまりこの本は、
架空の原作『プリンセス・ブライド(著:S.モーゲンスターン)』を、ゴールドマンが編集・抜粋した形で作られているという設定の本。


「私だ」 作者が何度も出てくる、変な構造

この本、読んでると本編の途中に突然「私だ」と出てくるのが特徴。

  • 「ここ、面白くないので切りました」
  • 「この章、息子が挫折したので削りました」
  • 「この登場人物はもうすぐ死ぬけど…と父に言われた記憶があります」

といった赤字の解説がガンガン割り込んできます。

第2章はごっそり削られて5ページ程度
第4章に至っては**「全削除しました」→丸ごと赤字だけの章**という大胆さ。

小説というより、編集者視点の実況付き朗読を読んでるような不思議な体験です。


でも中身は王道冒険譚。しかもちゃんと面白い。

この本がすごいのは、こんなひねくれた構造なのに、
本編がちゃんと面白いこと。

内容は王道の姫と青年の恋と冒険
しかし、そこにゴールドマンならではのシニカルなセリフや捻りが入っていて、
ただの「ファンタジーもの」では終わらせない工夫が随所にあります。

構造も変、セリフも変、でも全体として感動すら残る
このバランスが天才的です。


ちなみに映画もある。しかも名作。

この小説、実は1987年に映画化されています。
監督はあのロブ・ライナー(『スタンド・バイ・ミー』『ミザリー』)
おじいちゃんが孫にこの物語を読み聞かせるというメタ構造に変えて、
映画としてもひねりが効いた構成になっています。

当初は劇場ではあまりヒットしませんでしたが、VHSリリース後に大人気となり、
アメリカではカルチャーアイコン的な存在になっています。

日本ではあまり知られていませんが、DVDや配信で観られるので要チェック。


まとめ:変な構造の名作ファンタジー

『プリンセス・ブライド』は、

  • メタ構造(作中で作者がしゃべりだす)
  • 架空の原作と、それを抜粋したという設定
  • 赤字の解説と突っ込みが挟まる構成

という「変な仕掛け」で満載の本。

なのに、中身の冒険物語はちゃんと感動できるし面白いという、
二重三重に仕掛けられた構成が光る傑作です。

ゴールドマンじゃなかったら嫌味に見えるこの構造を、愛とユーモアで仕上げた彼の技術はまさに職人芸。

変な本好きも、物語好きも、読むべき一冊です。

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