マルク・アントワーヌ・マチュー『夢の囚われ人』──迷宮のような異色マンガ体験

今回紹介するのは、マルク・アントワーヌ・マチューによる『夢の囚われ人』シリーズ、第3巻です。
タイトルにふさわしく、読者を迷宮のような世界へと引き込む、異色のフランス漫画です。


マルク・アントワーヌ・マチューとは

マルク・アントワーヌ・マチューは、フランスを代表する前衛漫画家です。
彼の作品は、漫画の常識を覆すような構造的な仕掛け哲学的なテーマ性で知られています
単なるストーリー漫画ではなく、コマの使い方、視点、時間軸、物語そのものをひっくり返すような試みが特徴です。
その才能と独自性から、「変な漫画界の超エリート」「大天才」と評されることも少なくありません。


『夢の囚われ人』第3巻の世界

本作は、ある男が朝目覚めるところから始まります。
目を覚ました男は、もう一人の自分に出会います。
その自分が支度を整えて出かけると、今度は後から目覚めた自分が、何かに導かれるようにして物語を進んでいきます。
物語が進むにつれ、読者は徐々に気づきます。
この漫画の世界自体が、巨大な迷宮のように作られていることに。
コマの一つひとつが部屋のように配置され、主人公は漫画のコマを俯瞰で見下ろしながら、迷宮に入り込んでいきます。


漫画の中に入り込む構造

本作の最大の特徴は、主人公が「漫画のコマ」そのものに入り込んでいくことです。
各コマが独立した空間となり、主人公は俯瞰しながら自分自身の物語に迷い込んでいきます。

  • かつての自分がコマに存在している
  • コマを移動しながら迷宮を進んでいく
  • 物語が進むごとに、読者自身もこの迷宮に巻き込まれていく

こうして、物語は次第に螺旋状に展開していき、最後には最初のコマ──朝目覚めたあの場面──に戻る仕掛けになっています。
つまり、本作は終わりのない夢を延々とループし続ける構造になっているのです。


シリーズ全体について

『夢の囚われ人』シリーズは全6巻で構成されています。
そして驚くべきことに、各巻すべて異なる手法で制作されています。
毎回違った技法や構造を用いて、「漫画とは何か」「物語とは何か」を根底から問い直す実験作です。

1冊読むだけでも圧倒されますが、シリーズを通して読むと、より一層その異常なまでの完成度と狂気に触れることができます。
一部のファンの間では、「6巻すべて揃えたら戻ってこれなくなる」という冗談まで囁かれるほどです。


その他の作品について

マルク・アントワーヌ・マチューの作品は、『夢の囚われ人』シリーズ以外にも多数存在します。
未翻訳の作品も多いものの、日本語版が刊行されている作品もあり、いずれも独創性に満ちています。
特に、日本で手に入る数少ない翻訳版でも、彼の異常なまでに実験的な手法を堪能することができます。
また改めて、他作品も紹介する予定です。


まとめ

『夢の囚われ人』第3巻は、コマの概念そのものを物語に取り込んだ異色作です。
マルク・アントワーヌ・マチューという作家の、圧倒的な発想力と構成力を感じさせる一冊であり、漫画表現の可能性を広げた傑作と言えるでしょう。

普通のストーリー漫画とは一線を画した、読んで体験する作品を探している方に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

コメントを残す