幻の一冊──メビウス『B砂漠の40日間』

今回紹介するのは、フランスの伝説的漫画家メビウスによる作品、『B砂漠の40日間』です。
漫画界の巨匠メビウスが生み出した本作は、今なお多くの読者を魅了し続けています。


メビウスとは誰か

メビウス(Moebius)は、フランス出身の漫画家ジャン・ジロー(Jean Giraud)が用いた別名義です。
彼は一人で二つの作風を持ち、名義を使い分けて活動していました。
• ジャン・ジロー名義
→ 主に西部劇調の、ストーリー重視のリアリズム作品(例:『ブルーベリー』シリーズ)
• メビウス名義
→ 幻想的で瞑想的な、ジャンルにとらわれない自由な作品
『B砂漠の40日間』は、メビウス名義で発表された作品であり、彼の幻想的な側面が色濃く表れています。


『B砂漠の40日間』の内容

本作には、明確なプロットは存在しません。
舞台は果てしない砂漠。そこに一人の男が座り、瞑想を続けます。
その男の前に、数々の幻影──幻想的な存在や風景──が次々と現れては消えていきます。
物語は、こうした幻影の連続で構成されています。
各ページには、ストーリーの進行よりも、イメージと感覚の連なりが重視されており、まるで読者自身が瞑想体験を共有しているかのような没入感を味わうことができます。


画の魅力──一発描きの驚異

特筆すべきは、その驚異的な作画技術です。
『B砂漠の40日間』のすべてのページは、原寸大の用紙に、下書きも修正も一切なしの一発描きで描かれています。
制作時間は、1枚あたりおよそ3時間から5時間。
このスピード感でありながら、緻密で豊かな表現力を持つ絵が生み出されているのです。
しかも、それらの作品は1ページ1ページが独立した美術作品とも呼べる完成度を誇り、眺めるだけでも深い感動を覚えます。


現在は絶版、高騰する中古価格

『B砂漠の40日間』は、現在日本国内では絶版となっています。
復刊を望む声はあるものの、正規の流通では入手できないため、中古市場では価格が高騰。
日本のAmazonでは数万円で取引されており、最高価格では89万円というものも確認されています。
もちろんそれらは中古品ですが、状態によっては非常に高値で取引されています。
もしも運よく中古市場で1万円前後で発見できたなら、迷わず購入すべき一冊と言えるでしょう。


『B砂漠の40日間』を読む意味

本作は、単なる漫画作品の枠を超えています。
• ストーリーの枠組みに縛られない自由な表現
• 圧倒的な作画力と想像力
• 瞑想と幻影をテーマにした哲学的な静けさ
これらが融合することで、読むというよりも体験する作品となっています。
また、何度でも繰り返しページをめくるたびに、新たな発見や感動を与えてくれるため、「一生ものの画集」として手元に置きたい一冊です。


総評

『B砂漠の40日間』は、メビウスという作家の本質が凝縮された傑作です。
入手困難なこともあり、今や幻の一冊となりつつありますが、もし巡り合うことができたなら、それはまさに幸運と言えるでしょう。
瞑想、幻想、砂漠──静かに心を打つ世界観をぜひ体験してみてください。

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